秋田経済研究所 中小企業振興表彰                                受賞者のご挨拶

秋田経済研究所 中小企業振興表彰  受賞者のご挨拶




Akita Economic Report 2025年7月号に掲載されました。

〈表彰理由〉

(1) 樺細工の製造販売のほか、美術工芸品、観光土産物等の販売を営んでいる。

(2) 伝統工芸の販路を広げるべく海外(ヨーロッパ)展開に積極的に取り組んでおり、2012年に国際見本市「アンビエンテ」(ドイツ)に初出展以降、ヨーロッパ各地で市場調査を行い、海外の有名ブランドに製品が採用されるなど、海外に秋田発の商品を発信している。

(3) 樺細工の製作では、通常使用されない未利用材を活用し、ウォールパネルから小さなアクセサリーまで無駄なく使用するサスティナブルな取組みも行っており、その製品についても高い評価を得ている。

 

受賞者のご挨拶
有限会社冨岡商店 代表取締役 冨岡 浩樹 様

 この度は、「中小企業振興表彰」という栄誉ある賞を賜り、社員一同、大変光栄に存じます。日頃より多大なるご支援をいただいております皆様方に、心より深く御礼申しあげます。

 今年は設立50周年、私が入社して40年、そして父より事業を継承して20年という、私にとっても会社にとっても忘れられない節目の年となりました。このことを契機に、これまでの歩みを振り返りながら皆様に弊社のビジョンをご披露し、今後の決意とさせていただきます。

 弊社は、父が角館町の樺細工問屋「菊地商店」を事業承継したことに始まります。創業期には二つの大きな課題に直面しました。一つは原材料である桜皮の確保でしたが、樺細工職人の皆様の多大なご支援により、この危機を乗り越えることができました。二つ目は資金面です。旧角館町が進める角館樺細工伝承館並びにふるさとセンターの建設、山桜の植栽事業に対し、弊社は樺細工業界の皆様とともに多額の寄付を行いました。これは全国的にも珍しい事例だと伺っており、業界と町が一体となって産業・観光振興を推進しようとする、強い気概の表れに他なりません。

 私が父の経営するこの会社に就職したのは1985年、日本がバブル景気に向かっていた時代で、その恩恵に預かり、会社も順調に成長していきました。私の担当は百貨店とギフト商社の販路開拓です。特に百貨店では、「売台の上がゴール地点」と言われるほど、一度商品を置いてもらえれば、在庫がある限り青天井で売上が上がる時代でした。

 3月上旬から4月上旬は、贈答品シーズンのピークに当たります。弊社の売上で一番大きな数字を作っていたのは横浜にある百貨店の催事でした。二十数カートンを積み上げ、1か月間にわたる販売は、当時の弊社の主力事業の一つでした。4月上旬に催事が終了すると、今度は地元角館の桜まつりが始まります。会社の倉庫には商品がないため、ワゴン車で横浜へ向かい、商品を積んでそのまま夜通し運転して帰ってくることを続けていました。その当時の私にとって、心地よい疲労感を覚えるとともに、満足感が得られた楽しい時代でもありました。

 しかし、そんな時代も長くは続きません。バブル崩壊後、少しずつ売上が減少していくことになります。2005年、私は父から事業を継承し、仙北市に本店を移転しました。そして、セレクトショップの「アート&クラフト香月」を本店に併設しましたが、なかなか売上を上向きに転じることができません。茶櫃、書類入れ、小引き出し、ポットワゴンなど、これまでに需要があったものが全く売れなくなったのです。これは、伝統的工芸品にありがちな、つまり「伝統的であること」が現代生活とマッチしなくなり、結果的に「売れない」という事態を招いていたのです。そこで私は樺細工の魅力を再発信するため、2008年に企業理念を刷新しました。

 『わたしたち冨岡商店は、国指定伝統的工芸品である樺細工の製造元として、世界に類を見ない一属一種ともいうべきクラフトの価値を国内はもとより広く世界に発信し、「一生に一つ」使い続ける豊かさを通じて、人々の潤いある生活に貢献できる企業を目指します。』

 この理念には、「一属一種」「広く世界に発信」「使い続ける豊かさ」「人々の潤いある生活に貢献」という4つの重要なキーワードがあります。この中で、特に「広く世界に発信」をどうやって具現化するのかを日々考えていくようになりました。そうしたところに2011年3月11日、東日本大震災が発生します。三陸地方は贈答品の単価が非常に高い港町です。従業員が前日の10日にワゴン車に樺細工を満載にして数社のお取引先様へ納品した翌日のことでした。そうです、翌日すべてが無くなってしまったのです。

 そこで私はすぐに決断しました。「世界へ打って出よう。今こそ企業理念を具現化する時だ」と。翌年の2012年2月にフランクフルトで開催される国際見本市に出展を申し込むため、私は世界で活躍する空間デザイナーの橋本夕紀夫氏に、海外の家庭でも使える樺細工のデザインをお願いしました。同時に月一回、仙台の独立行政法人中小企業基盤整備機構東北本部を訪ね、海外企業との契約書作成についての勉強もしました。やがて国際見本市出展の審査が通り、2012年2月、いよいよ海外進出です。周囲からは、「オファーをもらうためには3~4年かかるよ」「それまで出展を継続する体力がないとできないよ」と、様々な声を聞きました。しかし、幸いにも1年目でオファーをいただきました。フランスの有名メゾンからです。初めての直接輸出のお取引先様です。その場で身体が固まってしまったことを今でも覚えております。

 以後、海外見本市出展とヨーロッパ各地で市場調査を継続してきました。その中で出会ったデザイナーのMauricio Clavero Kozlowski氏と昨年、樺細工の壁面パネルを開発しました。コズロフスキー氏は自らを「自然を住宅に導くためのガイド役」と称しました。その言葉を聞いた時、私は「これだ」と膝を打ちました。樺細工の主要プロダクトである茶筒の製作には向かない大量の未利用材を、この壁面パネルに利用できるのではないかと思ったのです。

 人工物の建築と対置させることで、どんな素材からでも自然の美しさを引き出すことができるかもしれない。これは、樺細工の新たな可能性を開拓する画期的な発見で、弊社の最新のプロダクトです。

 私は、世界の人々に暮らしの中で普通に樺細工を使ってもらいたいと思っています。樺細工を広く世界に発信していくためには、その土地の文化や生活様式に合わせたローカライズが非常に重要なポイントとなります。さらには、樺細工は経年変化を楽しむことができますし、職人文化が続く限り手直しもできることから、世代を超えて長く使い続けることができます。理念のキーワードにもなっている「使い続ける豊かさ」とは、弊社のビジョン「家族の絆に貢献する企業を目指すこと」につながっていきます。
 
 最後になりますが、理念の前に社長である私も一従業員です。家族の絆に貢献できる企業であり続けるために、社員一同、日々精進してまいりますので、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申しあげます。

本日は誠にありがとうございました。

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