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[経営探訪]
テーブルウエアだけに限らない新たな商品の開発で樺細工の可能性を見出す



国指定伝統的工芸品・樺細工
需要の変化をいち早く感じ取る

 先代である父が樺細工問屋だった「菊地商店」を承継して創業したのが昭和45年のこと。冨岡浩樹さんは、平成17年から代表に就任し、同時期に本店を角館に移転してセレクトショップ『アート&クラフト香月』をオープンしたが、需要が変わったと感じた。
 樺細工は国指定伝統的工芸品。1781年から1789年の間に阿仁地方から角館に伝わったとされる貴重な技術で、山桜の樹皮を用いた細工物だ。防湿・防燥に優れ、なおかつ堅牢であるという特徴を持つ。そのため、古くから茶葉や薬を保管するものとして愛用されてきた。時代の変遷とともに、需要が落ち込んでいると感じていた冨岡さんは、代表就任前から新たな商品づくりに取り組んでいた。「青山にある伝統的工芸品産業振興協会を通じて、他の伝統工芸品の産地の方連携して商品を開発したり、東京都大田区の金属加工業の方とコラボしてランプシェードを作ったり。それまでの型にはまった製品だけでなく、樺細工の新たな可能性を模索していました。



東日本大震災による海外展開と海外クリエイターとの出会い

 平成23年の東日本大震災で売り上げが落ち込んだことがきっかけで、海外に目を向けた。樺細工に秋田杉や塩化ビニル樹脂などの異素材を組み合わせることで、現代的なエッセンスを取り入れたデザインブランド「art KABA」を立ち上げた。「これにより世界的ブランドからオファーを獲得でき、海外展開のきっかけとなりました。その後、フランス在住のデザイナーで、著名なブランドのアートディレクターを経験しているマウリシオ氏と出会い、懇意にしています。昨年夏、角館に来てくれたのですが、翌月私がパリを訪れた際に、新商品の企画書を見せてくれました」。マウリシオ氏が提案してくれたのは、住宅用のウォールパネルだった。ターゲットはフランスの富裕層だ。
 「フランスの住宅事情や文化などは、私にはまったく知識がありません。現地に住むクリエイターでなければ、考えつかない樺細工の活用法だと感じました」。



既成概念にとらわれず、新たな樺細工の活路を見出す

マウリシオ氏からの提案は、住宅の壁に取り付けるアクセントパネル。樺の素材の個性や仕上げによって生まれる質感の違いを活かしつつ、8種類のデザインを展開している。どれもマウリシオ氏が角館を訪れたときにインスピレーションされたもので、刀や弓、鉄扇、兜、鎧といった武家屋敷が立ち並ぶ角館にふさわしい日本の伝統的なモチーフが特徴だ。
 「国内の展示会で取引先から『樺細工、いい方向に脱皮できましたね』と言われ、うれしかったですね。樺細工の魅力はひとつひとつが違う表情であること。今回の商品はその特徴をうまく捉えたものになっています。地域を知るクリエイターとコラボする重要性も再認識しました」。
 この新商品は、5月に記者会見で正式リリースを迎えたばかり。冨岡商店の新たなフェーズが今、始まる。
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